TopCarsもう少し乗ってみたクルマ>フェラーリ テスタロッサ
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生まれて初めて、ゆっくりとスーパーカーに乗ってみた。

フェラーリ様。説明はいらない車種だ。いわゆるスーパーカーってやつで、スーパーカー世代のハートをぐっとつかんで離さない要素を全て押さえている。いわく ミッドシップ、いわく12気筒エンジン、いわくリトラクタブルヘッドライト……そして跳ね馬のエンブレム。

『テスタロッサ』はイタリア語で「赤い頭」という意味なのだそうで、由来はミッドに搭載したエンジンの、赤く塗装されたカムカバー。水平対抗12気筒・排気量5リットルのこのエンジンは、なんと390ps/50kg-mを発生する。

クルマを借りて運転席に座った私にオーナーが言った言葉は、「半クラせんといてな」だった。そう、オーナーは奈良出身で関西弁なのだ。いや、注目点はそこじゃない。スーパーカーってやつはクラッチが非常にデリケートにできていて、あまり半クラッチを多用するとすぐに磨り減ってしまうのだそうだ。

MTで免許を取った人なら「どれだけうまく半クラできるか」がMT運転のうまさのように教わっているはずで、これはとまどう一言だ。しかし実際に運転を始めてみると、クラッチを静かにつないでさえやればエンストなんかしない。ありあまるトルクのおかげで、アクセルを踏まなくても、クラッチを静かに戻せばエンストなんか起こさずに走り始めるのだ。しかし、交差点とかでつい焦っちゃうと、やっぱりやっちゃうんだよなー、エンスト。交差点の真ん中、右折レーンの先頭でフェラーリがエンスト。こんな恥ずかしい図もないんだけど……。

運転席からの視界は、右のドアミラーが少々見づらいのをのぞけば非常に良好。あの狭いウィンドウで大丈夫なのかと心配したバックミラーからの視界も。思いのほか広かった。そのバックミラーの視界の中でかげろうがたち、やっぱりエンジンが熱いんだろうなと妙に感心した。同じミッドシップでも、MR-Sでは起こらなかった現象だ。

街中ではクラッチに神経をすり減らしながら走っていたが、高速道路に出ればこっちのもの。豊かなトルクのおかげで頻繁にシフトチェンジをしてやる必要もなく、どのシフトのどの回転域からでも流れについていくのに困らないだけの加速を示す。そのため、追いかけっこをするのでもない限り、慣れない人でも焦らずに運転することが可能だ。ただ、慣れていようがいまいがおかまいなしにクルマは加速する訳で……。本来の性能を活かしたい!という人は……サーキットにでも行ってください。

装備面の話を少し。まず、パワステはなし。エアバッグも装備されていない。座席の調整は前後のスライドだけでリクライニング機構はなし。しかしウィンドウとドアミラーは電動で、集中ドアロックもABSもアリ。オーディオはSONY製が装備されていたけど、あれはきっと日本に来てからつけられたものだと思われた。スピーカーは足元に埋め込まれており、そこそこの音質。高速道路ではエキゾーストにかき消されて聞こえないけれど。

乗っている間に最も苦労したのは駐車場。なんてったって、幅が1970mmもあるんだから! 1970mmといえば小型トラック並みだもの。都内のファミレスの駐車場に入れたらもういっぱいいっぱい。それに、車高が低いのでタイヤストップまでつっこむことができず、前も飛び出してしまう。その際の救いは、少々適当に停めてあってもフェラーリ様に文句を言う人がいないってところか。

以前から一度は乗ってみたかったクルマではあったのだけど、乗ってみての感想は、『これはイラン!』だった(貸してくださった方、ごめんなさい ^^;) このクルマは走ることのみを目的に作られていて、室内の空間はすべて運転手のために存在しているような気がする。速さを求めるクルマのあるべき姿には違いない。でも、誰かと一緒にドライブを楽しむにはこのクルマはあまりにも不向きで、私のクルマの用途の最たるものはそういったところにある。会話はエキゾーストにかき消され、ドライバーは運転に集中しなくてはならないので助手席との会話も楽しめない。そういうクルマは、私の好みというか、クルマの使い方にはあわないなと思ったのだった。
スペック
フェラーリ テスタロッサ 平成元年(1989年)式
型式 不明
エンジン型式 F113
排気量 4943cc
エンジン形式 水冷水平対向12気筒DOHC48バルブ
最高出力 380ps/5750rpm
最大トルク 48.0kg-m/4500rpm
トランスミッション 5MT
ボディサイズ 4510×1970×1160mm
車両重量 1660kg